J・デューイ『ドイツ哲学と政治』

 序章の「ヒトラー国家社会主義における一元的世界」を読む。ヒトラーシェリングやカントやヘーゲルについて一片の知識も持ちあわせてはいないけど、にもかかわらず両者には共通したとこがある、というまあよくある話。この素朴さに比べるとブルデューの「界」の概念の優れていることがよく分かる。社会学の論文じゃないとはいえ、デューイがこれほどまでに戦闘的な調子の文章を書くとはちょっとびっくりした。
 とはいえ、この素朴さ故にナチの政治思想の輪郭がくっきり描き出されている。ブルデュー、オット・フーゴ、マイネッケ等々、ドイツもしくはヨーロッパ知識人たちのナチへの批判・反省は、あまりに距離が近すぎて部外者には容易に近づきがたいところがある。一方、日本のナチ研究は、歴史的事実の叙述に偏っていて(と自分には思われ)、めくるめく思想の深みには触れられない。その点デューイは簡潔。
 この序章が書かれたのは1941年、まだペーネミュンデでロケット実験が繰り返されていたころ。