たしかに彼女のほうがこうした点でウィンストンよりもはるかに先鋭的であり、党の宣伝にもずっと影響されにくかった。(…)彼女がまた、<二分間憎悪>のときに一番苦労するのは思わず噴き出して笑ってしまわないように我慢することだ、と言うのを聞いて、彼はある種の羨望の念をかきたてられもした。

とはいえ、彼女が党の教えに疑問を抱くのは、それが何らかのかたちで自分の人生にかかわる場合に限られていた。神話めいた公式見解を鵜呑みにすることがよくあるのだが、それはひたすら、真実と虚偽の違いが大して重要だとは思えないからだった。(…)彼がそうした話題に固執して話をやめないと彼女は眠りこんでしまって、彼をまごつかせた。


  二人の食い違いがよい。男は抽象的に、女は現実的にものを考える、という古いステレオタイプだろうか。そうかもしれない。でもこの齟齬は、不和をきたさず、不幸の予兆ともならず、愛のかたちとしてそっと保持されている。