日曜からずっと雨の降りどうしだ。薄手のコートがほしくなるくらいの気温。もうちょっとしたら大学通りが色づいてくるな。
ドイツ語の授業のあと、本屋で司会の本を物色したあと、スタバにしけこんで「V.」を読む。「ステンシルの動機のように理知的なかたちを取った動機の場合には、当然ながら本能は問題にならない。つまり彼の強迫観念は確かに後天的なものだが、それなら一体いつ、どのようにして得たものだろうか」(上308)。フムこりゃスロースロップとまったく同じだ。ピンチョンはこのあたりをふくらませて「重力の虹」のモチーフにしたんだろう。そしていよいよモンダウゲンこと<月の眼Mondaugen>とヴァイスマンの1922年南西アフリカの話に。この世間から隔離されたビスコンティ風乱痴奇騒ぎは、「重力」のアヌビス号のエピソードによく似ている。
そういえば、実は今年の8月11日は、「V.」第9章の登場人物たちのオブセションとなっているフォン・トロータ将軍によるヘレロ族の虐殺の100周年記念にあたり、ナミビアで開かれた式典には、ドイツの開発援助省長官が参加した。政府の公式代表が参加したのは初めてのことらしい。ドイツの「特別な責任」については言及されたが「謝罪」はなかった、と新聞は伝えている。そして奇しくもおなじ8月11日の新聞の一面には、「重力の虹」の大きなモチーフであり、第2章のエピグラフにもなっているキング・コングの「白い女」、フェイ・レイの死去を伝えるニュースが載った(正確な死亡日は8・8らしい)。だからこの日のドイツの新聞には、ヘレロ族とフェイ・レイの写真が並んで出てる。「重力の虹」の特集でもしてるのか思うくらいの偶然だが、いやそうじゃなくて、やっぱりこの作品が20世紀の経験にいかに深く入りこんでいるかの証明なんだろう、と思う。