(9):ロケット・コンツェルン

 そしてこのキュート・ミートの衝撃で、なんで株式保有とかかんとかが気になっていたのかピキーンと閃いた。やっぱり『重力の虹』じゃーん。欧米の産業=経営史の正史と闇。とかそのへん。1920年中欧アメリカ。

ブランドは20年代初頭に、ドイツの<フーゴ・シュティネス工作>と深く関わっていたようだ。生存中のシュティネスは、ヨーロッパ金融界の若き成功者だった。一族は何代にもわたってルール地方の石炭王であり、そこから基盤を固めた若きシュティネスは、三十前にすでに鉄鋼、ガス、電気、水力発電、市電、海運を牛耳り、堂々たる大帝国を築いた。[第一次大戦]戦時中は、ヴァルター・ラーテナウと組んだ。ラーテナウは当時全経済を掌握していたのだ。戦後、シュティネスは、電力界の<ジーメンス=シュヒャルト>という水平トラストと、石炭と鉄鋼を供給する<ライン・エルベ連合>とを統合することに成功し、水平かつ垂直であるスーパー・カルテルをつくりあげた。…書類の説明からすると、ブランドはシュティネスが破産しつつあるのを他の大半の犠牲者たちより先に分かっていたか、あるいは彼がただ生来心配性であったかのどちらかだ。1923年早々にブランドはシュティネス工作に関わる持ち株を売却しはじめた。この株の一部は、ラスロ・ヤンフを通して、グレッスリ・ケミカル・コーポレーション(後のプシヒョヒェミー株式会社)に売られた。この取引で譲渡された資産の一つは、「シュヴァルツクナーベ企業における全利権。販売者は、シュヴィンデル会社が販売者によって妥当と認められる相応の購入者により救済され得る時期まで、監査義務を続行することに合意する」と書かれている…

 主人公スロースロップが調査を進めるうちに、自分をめぐる巨大な陰謀に行き当たる場面。なんだけど、経営史や産業史の基本的知識がないのでよくわからないんだよな。企業連結とかシナジーとかパテントとか。ともかくも作品の中では陰謀論はさらにエスカレートし、IGファルベン・ジーメンスクルップ・ICI・シェル・デュポン・GE・合同製鋼といったコンツェルン、合成染料・薬品・LSD・フィルム・プラスチック・ナイロンといった新産業と、<戦争>をめぐるパラノイア的思考に発展していってわけわからん。だけどこれは20世紀の経験そのものをテーマにしたこの作品の肝じゃなんだろう。

…つまり今度の戦争は政治的なものではなく、政治はまったくの見世物にすぎず、民衆の注意をそらしただけであり…そのかわりに秘密のうちに戦争を導いていたのは、テクノロジーの要請であり…人類と技術の共謀であり、戦争というエネルギー爆発を必要とし…「夜明けはそこまで来ている。夜の血が必要だ。資金、資金、ああ、もっと、もっと…」と叫ぶなにものかなのだ。本当の危機は、配分と優先権の危機であり、企業間のそれではなく(ただ表向きそうなっているように見えるが)むしろ各種の<テクノロジー>、<プラスチック学>、<電子工学>、<航空学>の間のそれ、それにエリートの支配者のみが理解するそれらの必要度の間のそれだったのだ…

 引用ばかり長くてみっともない。センスない。といいつつこっそりトラバ。さて寝よ。